Happy Birthday
Happy Birthday
たったそれだけのメッセージが届いたのは、もう、９月２日も終わろうとしていた頃だった。
確かに、昨日はシンの誕生日で、みんなにお祝いしてもらった。
この戦時下の大変な時だから、ささやかなものだったけれど。
夕食には、小さなケーキが付いていて。
ヴィーノがジュースをおごってくれて。
ヨウランが、新作だという成人向けの雑誌をくれて。
ルナマリアが、なんだか甘い菓子をくれて。
レイが、「おめでとう」と言ってくれた。
なのに、何故、今頃。
送信日時は、C.E.73. 9月1日、AM０：０３
丸二日近くかけて、シンの下へと届いたメッセージ。
何故、そんなにかかったんだろう。
差出人を見れば、大洋州連合の、知らない企業のメール配信サービスの署名が入っていた。
そして、企業を示すcp.の後に、「A」と。
A
それは、何か、識別コードの一種だったのかも知れない。
サーバーを示す記号かもしれないし、次のメールにはBと付く、番号代わりに過ぎないのかも知れない。
しかし、シンには。
それが、人の、名前に見えて。
Athrun
それは、「夜明け」を示す名前。
その名のとおり、夜明け色の髪をした。
人の、名前。
地球と、プラントと、月と。
様々なサーバーを経由した形跡が、そのメッセージにはあった。
そう、今、オーブにいるあの人が、ザフトのシンに言葉を伝えるには、並み大抵の手段では無理なのだ。
それが、たとえ誕生日を祝うような、他愛もないメッセージだったとしても。
Happy Birthday
それは、シンの幻想かもしれない。
願望かも、知れない。
それでも、たった一言。
一日遅れのメッセージ。
それが、こんなにも嬉しい
ディスプレイに浮かんだ、小さなドットの形作る、アルファベットを指でたどり。
シンは、知らず、涙を流していた。
「・・・届いたかな」
「すまない、こんな危険を冒させて」
「ううん。大丈夫。僕の技術を疑ってるの？」
「いや」
アスランは緩く首を振り、キラは、少し笑って。
「届いた、よね」
「・・・ああ。ありがとう」
たった一言、伝えたい言葉があった。
たった一言、伝えることが、今は精一杯だれど。
君の生まれてきた日を、とても、喜ばしく思うよ。
Happy Birthday
誕生日、おめでとう。